道の途中 5

「でさ。ひとまずでかけない?」
「う……ん、いいけど」
「暑いと思うんだけど、買うものとかあればついでに見ながらってどうだろう」

大祐の提案に少しだけ顔が曇ったが、頷いたリカは支度を始めた。その間にも、大祐があれやこれやと話し続ける。

「子供らのは部屋の中を片付けたい、でいいんだよね?結局、子供部屋だけに収まんないもんなぁ」
「そうなの。一番いる時間が長いと、おもちゃもこっちに置いちゃうし、子供たちの支度もこっちでしちゃうでしょ?洗濯物もこっちで畳んですぐ保育園のバッグに入れちゃうし……」
「でも、リビングはリビングだもんね?」

リカとしては時々、片付かない部屋にやりきれなくなるらしく、独身時代のリカの部屋を思い出すとそれはそうだろうと思う。
今は片付いているとはいえ、細かいおもちゃや雑貨が増えすぎてシンプルでさっぱりしたリカの好みからは確かに外れていて、やるせなくなるだろう。

「よし、全部じゃないけど、場所を寄せるとかそれは何か考えよう」
「わかった。なんか、つい近くにまとめておいちゃうのよね」

家事の悩みといえば悩みだが、日ごろ任せている分少しでも煩わしさを減らしたい。

着替えを終えて、リカの支度を待ちながらリビングの中を見回す。

「そうだ。リカ、俺の服も今日買えるかな」
「あ、うん。それは大丈夫だと思う。どういうのが欲しいかもう決めてるの?」
「え、と普段も着られそうででもこっちで着てて恥ずかしくない程度の……」

ぷっと笑い出したリカは大祐を見上げる。困り顔の大祐が首を竦めて、何とか続きをひねり出そうとした。

「うーん、こっちでさ。ちょっと出かけるときに着て行けるような?」
「スーツじゃなくて?」
「あーうん。なんていうか……」
「わかった。ひとまず、行った先で考えましょうか」

苦笑いを浮かべたリカは支度を急いだ。

リカを引っ張り出した大祐は、特に目的はなかったが銀座に向かった。

「新しいお店ができたって話題になってたよねぇ?リカたちも取材にいった?」
「あー、うん。いったなぁ。って言ってもオープン前だからもうかなり前のイメージ……」
「俺にとってはすごく最近なんだけど……。やっぱり時間の流れが違うなぁ」

天気がいいというには、よすぎるくらいに晴れた空を見上げながら広い道路の真ん中を歩く。

「大祐さん、そのあたりに入って、ひとまずメンズの服でも見てみましょうか」
「そうだね。ひとまずみてみようか」

暑さをよけるのもあって、近くのデパートに足を向ける。下の階ほど女性向けが多いが、上の階に上がるとメンズのショップがある。

「そうねぇ。今は色にこだわらないのもおおいんだけど、どう?」
「そう……だなぁ。でも、俺ピンクとか紫とか言われても……」
「まさか!さすがにそんな色には……でも、差し色にはいいかも?」
「差し色?」

自分の着るものにはあまりこだわりがない大祐は、放っておけばTシャツにパンツ、それに同じ色のシャツを着続けることもやりかねない。

そんな大祐に、リカは傍にある真っ白なシャツに手を伸ばした。

「見て。これ、シンプルな白だけど、ボタンが変わってるじゃない?」
「あ……ほんとだ」

白に紫に黒の三層のボタンはぱっと見、白いのに横から見れば三色に見える。

「へぇ。なんかいいね」
「これならスーツに着ても違和感ないでしょ?」
「うん。こういうのいいね」

大祐の反応を見ながら、色々と見て歩く。
二つのフロアを歩き回ってから、一休みにとカフェスペースを覗いて顔を見合わせた。

「すごい……」
「できてだいぶたつのにこの行列……」

フロア内のカフェだというのにカフェを取り巻くように長い行列ができている。

「これはさすがにやめよう。いつになるかわかんないし」
「そうね。歩きながら飲めるコーヒーショップの新作でもどう?」
「あ!それにしよう!」

人込みだけでなく、この行列にうんざりしていた大祐はぱっと顔を輝かせて歩き出す。
小さく笑ったリカはスマホを見ながら大祐の腕をとった。

投稿者 kogetsu

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