「でも、俺は身近で確かに見ていたんだ。本当に、嘘みたいな純愛を叶えた奴らを。離れようと、何があろうと、ただ好きだって気持ちだけで乗り越えた奴らを見てきて、その二人がどれくらい努力をしたのか、お互いのためだけじゃなくて、一緒に飛び続けるために自分自身も決して甘やかさなかったこと。だから俺には無理だと思ってたんだけど、間違ってた」
自分たちのことを言っているのだとはっきりとリカにはわかった。そして、自分に頼んだ藤枝が、大祐に見せてもいいとあえて言ったことの意味も分かった気がする。
「……何を間違ってましたか?」
「純愛なんて俺には無理だって思ってたけど、無理とかそういうことじゃないんだって。きっと、そういう相手がいたら、やめるとかやめないとかじゃなくて、そうなるしかなくて、そんなことは自分でも選べたりしないんだって思った」
「……おっそ」
「うるせ。……いいんだと思う。それぞれにそのタイミングがあって、納得できるタイミングで出会えるのかもしれないし」
ふいに、きっとこれを見るときの大祐の様子が思い浮かんで、ふっと笑ってしまった。
「その、純愛の旦那の方は、きっと苦虫をかみつぶした顔をしてるかもしれないし、頷いてるかもしれない。今はいい飲み仲間だけど、きっと俺はその二人にたくさんのことを教えられてたんだと今頃思ったりする。わざわざ、礼をいうよりも今はその力を借りて、好きだって伝えたいと思ってる」
「西村朋さん。俺はあなたが好きです。たとえば、あなたがよく口癖のように言う、年上だからとかおばさんだからって言われても、全くそんなことは思ったことがないし、かえって可愛い人だと思う。固いって言われると気にしてるみたいだけど、話している時はユーモアがあるし、面白いし、頭がすごくいい人だと思う。時々、素でぼけるときも、まさか!っていうところで隙があって、完璧じゃないからこそ、支えたくなる時もあるし、楽しいことがあったら一緒に話したいと思う」
女性なら不安になるだろう、未来なんてわからないけれどもわからないからこそ、おもしろくもあり、一緒にいられるんじゃないか。
そんな想いも込めて、どういう風に伝えたら、見てもらえるか、聞いてもらえるかを考えた結果がこれだった。
テレビ屋が映像というのはらしいだろう。
海外なら、生放送中に告白なんてたまにニュースになったりもするが、日本ではそうもいかない分、こんな風に伝えるしか方法を知らない。
「これを見てくれたら、答えを聞かせてください」
「……伝えたいことは伝えられましたか」
「今のところは。後は、本人を目の前にして話したいと思う。聞いてくれるなら一晩でも」
「博愛藤枝は返上ですか」
「もとから博愛じゃないし」
カメラを切るふりをして、リカは立ち上がった。
「もし断られたらどうするの?」
「さあ。その理由が納得できるなら引き下がるかもしれないし、納得できなかったらそのまま変わんないだろうな。お前だって、納得したふりして、結局二年も引きずっただろ?」
「だから!もう私のことはいいから!自分のことを考えなさいよ!」
ぷつっと、そこで映像は途切れていて、切らずにいたビデオカメラの電源を藤枝が手を伸ばして切ったところで終っていた。
「きっと西村さんのことだから、最後まで見たでしょ?なんかそういう気がする」
理由なんてないし、それだけ誰かのことをわかったつもりになってなれはしないが、何となくそんな気がした。
真面目で、まっすぐな人だから。
「……めです」
「……え?」
―― 駄目です
押し殺した小さな声は、笑みを浮かべて落ち着いていた藤枝を動揺させた。
「……本当に、分不相応な想いなんて持ったらダメ。いつか夢は終わるから、その時に苦しいのは嫌……。器用じゃないし、私のために藤枝さんに迷惑がかかるのも嫌だし……」
「ん。わかった」
ごめんなさい、と聞こえた気がした。
藤枝は、目の前の少し温くなった紅茶を飲み干して少し背の高い椅子から滑り降りる。
「行こう」
「……藤枝さん?」
西村が座る椅子の一つ向こうに置いてあるジャケットを西村の肩にかけて、鞄に手を伸ばすとさっさと会計をしてしまう。
羽織っただけの姿で席を立った西村を連れて店を出た。
「藤枝さん、待って。どこに行くんですか」
「うち。彼氏の家に行くのって普通でしょ?」
「かっ!彼氏ってだって、さっきわかったって……」
いったじゃないですか。
眉をハノ字にしてどこか泣きそうな顔にも見える西村を遮った。
「あのねぇ!……本気でいってるんじゃないことはもうわかったって言ったの。要するに、西村さん。俺のこと好きでしょ?だから、怖いって言ってる。でも、それは俺も同じだよ。俺だって怖い。俺は100%守れるなんて言えないし。傷つけないともいえないし。でも、やってみなきゃわかんないよ。そんで、意外とうまくいくかもしれないし。やらないで後悔するより、付き合ってみて、駄目だったら初めて後悔して」
「藤枝さんが後悔するかもしれ」
「俺は!たとえそうなっても人のせいにはしない。……だから、お願いだから逃げないで」
目を伏せて俯いてしまった西村の手が藤枝の袖口を掴んだ。
西村の鞄を持ちかえて、その手を握りしめた。
「……どうせならちゃんと掴んでよ」
繋いだ手をひいて、通りを走ってきたタクシーを止める。西村の仕事先は帝都よりも藤枝の家に近いからだ。
それに、今にも泣きそうな顔をしていた西村と一緒に電車を乗り継いで帰る気にもなれなかった。
タクシーに行先を告げて車が走り出しても、白いタクシーのシートカバーの上で手はつないだままだ。藤枝の手に預けられていた手がぴくっと動く。
「……面倒くさいよ?私」
「いいよ。俺も面倒くさいから」
ふわふわと現実感がないような、あるような。
その肩に、とん、と寄り掛かってきた。顔は窓の外を見ているのに、藤枝の肩に触れる分だけ近づいている。
―― 笑わないでね?色んなこと、慣れてないし……
―― そっちこそ笑わないでね。格好悪いところあっても
耳元で内緒話をするように声を潜めて、囁き合って。
隙をついて、一瞬、触れるだけのキスをする。
――-–……俺の彼女に。
end
こんにちは。
いっきに読んでしまいました。
本編での藤枝さんも軽そうに振舞っていても実は・・・って思いながら見ていたけど、こうして物語になると
「あ〜やっぱり藤枝さんもそうなんだ╰(*´︶`*)╯」と思いながら読ませて頂きました。
大佑さんとリカさんの純愛は周りの人達に見守ってもらいながら、その周りの人達も幸せにしてくれていたんですね。
20歳を過ぎた娘にも心からの恋愛をして欲しいです。
狐様 いつも心を掴まれる小説をありがとうございます。 次の作品も楽しみにしてます。
マコ様
ありがとうございます。空稲の二人は周りも巻き込んで変えていきましたからね。
きっと誰の胸にもこんな気持ちがかくれているんじゃないかな、なんてべたなことを呟いてみます。
こんにちは。
いっきに読んでしまいました。
本編での藤枝さんも軽そうに振舞っていても実は・・・って思いながら見ていたけど、こうして物語になると
「あ〜やっぱり藤枝さんもそうなんだ╰(*´︶`*)╯」と思いながら読ませて頂きました。
大佑さんとリカさんの純愛は周りの人達に見守ってもらいながら、その周りの人達も幸せにしてくれていたんですね。
20歳を過ぎた娘にも心からの恋愛をして欲しいです。
狐様 いつも心を掴まれる小説をありがとうございます。 次の作品も楽しみにしてます。
こんにちは。
いっきに読んでしまいました。
本編での藤枝さんも軽そうに振舞っていても実は・・・って思いながら見ていたけど、こうして物語になると
「あ〜やっぱり藤枝さんもそうなんだ╰(*´︶`*)╯」と思いながら読ませて頂きました。
大佑さんとリカさんの純愛は周りの人達に見守ってもらいながら、その周りの人達も幸せにしてくれていたんですね。
20歳を過ぎた娘にも心からの恋愛をして欲しいです。
狐様 いつも心を掴まれる小説をありがとうございます。 次の作品も楽しみにしてます。