結局、検査薬ではどちらとも受け取れるような薄らとした状態で、はっきりしたことはわからなかった。
「……ごめんね」
「謝らないで。リカのせいじゃないでしょ」
部屋の明かりを落として、とにかく休むことにした大祐とリカはぽつり、ぽつりと言葉を交わす。
「今、言うことじゃないかもしれないけど、俺は、二人の子供がいたらいいなと思うよ。もちろん、一緒に暮らすのが難しい俺がこんなこと言うのはずるいと思うんだけど」
「……うん」
一人だけの子育てが難しいことはよく言われている。
互いの親が傍にいるわけでもなく、たった一人というのは、何かあっても手助けできない。
「式……、するんでしょ?」
「うん?」
「結婚式と……披露宴」
ああ、と片腕を上げた大祐が額に手を当てた。
「お腹の大きな新婦じゃ……、大祐さんが困らない?」
「困るわけないよ。自慢する」
くすっと笑ったリカは、大祐が前にも同じことを言ったことを思いだす。
「あの……」
「なあに?」
「明日、一緒に行こうか」
「……え?」
驚いたリカを体ごと引き寄せる。ずっと考えていたのだ。
日頃は一緒にいられない。有事にも一緒にはいられない。それなら、こういう時こそ一緒にいるべきではないか。
「近くを探して、病院があったら一緒に行こうよ」
「だ……って、大祐さん、仕事……」
「有事でもなければ、緊急時でもないよ。平時に動けないなんてそんなのおかしいと思うんだ。日頃一緒にいられなくても、こういう時に来てくれた奥さんを大事にできなかったら、ほかの人を助けることなんかできないよ」
目を閉じて、大祐の喉元に唇を寄せる。話す声と同時に震える喉に触れる。
「本当に……、いいの?」
「いいよ。ほかの誰のことでもない、リカの、いや、俺達のことでしょ」
「……うん」
目が覚めたら。
そう約束すると、不思議なくらい、眠気が襲ってきて、あっというまにリカは眠りに落ちた。
翌朝、先に起き出した大祐がネットで検索するとすぐ近くに病院が一つあった。診察時間を確認してから、山本に連絡を取った。休みの許可を取り付けた大祐はゆっくりと朝食の支度をする。
よほど深く眠っているのか、目を覚ます気配がないリカの傍にそっと跪いた。
―― もし、違ってても本当でも
リカが自分に与えてくれるものはいつもかけがえないものだ。
―― 大好きだよ
寝顔を見ていた大祐は、そっとリカの顔を眺めていた。
しばらくして、リカを起こした大祐は、今日の仕事を聞いて、今日は休むつもりだというのを確かめた。
「そうなんだ。じゃあ、急いで戻らなくても今日中なら大丈夫なんだね」
「うん。夕べのうちに言わなくてごめんなさい」
「いいんだ。それより、近くの病院見つけたよ。診察時間までまだ時間があるから一緒にご飯たべよ?」
まだ眠そうな目をこすったリカが起き上がると、一晩でほっとしたのか、大祐の腕を掴む仕草が甘えているらしい。
手を引いてリカをベッドから連れ出した大祐はテーブルの前に連れて行く。
しばらく目が覚めるまでぼーっとしていたリカは、少しずつ目を覚ますと顔を洗ったりしてから二人で食事を済ませた。
着替えを済ませたリカは、時計を見た大祐と目があってからふっと笑みを浮かべた。
「本当に、落ち着かないね」
「そうだね。そろそろ行こうか」
「ん……」
車で向かってもいくらもかからない場所にあったのは幸いだった。
病院につくと、シートベルトを外したリカは大祐を振り返る。
「車で待ってる?」
「どうして?男は入っちゃいけないわけじゃないよね」
「そうだけど。男性はほとんどいないから」
気まずいんじゃ。
ばちん、と遮る様に大祐はシートベルトを外した。
「行こう。初診は待たされるかもしれないんだよね?」
「……うん」
受付で保険証を出して問診を書くと再び待合のソファで待たされる。
案の定、男は大祐一人だったが、視線を感じても大祐は腕を組んで座っていた。
「空井さん。空井リカさん」
「はい」
しばらくして看護婦に呼ばれたリカは、市販の検査薬同様に検査をするからと言われてしばらく姿を消した。