生乾きで柔らかくなった髪を擦りつけるように、大祐に寄り掛かる。風呂から出て二人で部屋の中に並んで座っていた。
片腕を体に回して、リカを抱えたまま同じシャンプーの匂いだな、と思う。
―― なんかへん……
たくさん、抱かれたからなのか、自分でもよくわからない。ただ、何となくどこか肌を寄せ合っていたかった。
「どしたの」
あやす様に抱き寄せられて、そのまま体を預けた。
肩の上に頭を乗せて、横顔を見慣れない角度で見る。
耳たぶの産毛とか、顎のラインとか、頬にかけての薄ら伸びた髭や皮膚を見つめた。
鼻先をすりつけるようにして唇を寄せる。
―― なんか……。なんだか……酔っているのは私の方みたい……
無我夢中でもぎ取った夏休みで、見たかった空には間に合わなかったけど、一人で見上げた空には大祐の広げた夢が大きく広がっていた。
ますます大きく羽を広げているんだと思ったら嬉しくなった。
一人で祭りを楽しんだ後、大祐の部屋に帰ってきたリカは、自分の部屋ではない匂いを感じながら、溜まっていた洗濯物を済ませて大祐の帰りを待った。
遅くなるとは聞いていたが、あれほどしたたかに酔っぱらって戻ってくるとは思ってもいなかったのだ。
「夏休みって……学生の頃何してた?」
「ん……。普通。大学の時はバイトしたり、サークル活動とかより、バイトで新聞社とかそういうところに行く方が楽しかったな。大祐さんは?」
「俺?うーん、どうだったかなぁ……。あんまり覚えてないけど、航空祭とか、青春18きっぷで行ったりしたかな」
懐かしい名前にくすくすと笑う大祐の喉元が揺れて、唇に振動が伝わってくる。
「電車、好きだったの?」
「え?なんで?」
「18きっぷとか。鉄道が好きな人が乗るんでしょ?」
随分、偏見に満ちたリカの発言に、もう一度大祐が笑った。
「そうじゃなくて、もっと単純に、小遣いがなくてそれでしか行けなかったんだよ」
「……そっか。そうよね。そういうこともあるわよね」
「そうだよ。そんなに金なんてなかったし」
うん、と小さく頷いたリカに、眠いの?と聞く。
気怠そうに囁くリカを振り返る。首筋に感じるリカの温かさに首をひねった大祐がキスをした。
「……眠くないんだけど、眠いの」
「少し寝る?」
「一緒に寝てくれる?」
甘えてきたリカに軽くキスを繰り返して、ソファに置いていたリカのためのブランケットを引き寄せた。リカの体にかけてやりながらクッションを枕に横になる。
「大丈夫?」
「ん……」
目を閉じたリカがそのままぴたりとくっついて首筋に唇を寄せる。そのくすぐったさに大祐が冗談めかした。
「リカ。それ、誘ってるの?」
―― そうなのかな?
自覚がないのに、仕草は妙に艶めいて。
「また、我慢できなくなっちゃうんだけど」
このままだと、また欲しくなってしまうと言われて、リカは大祐の耳にかぷ、と歯を立てた。軟骨を舌でなぞると、大祐の耳に舌の濡れた音が聞こえる。
「リカ……。ねぇ、聞いてる?」
「……聞いてる」
「じゃあ……」
いいの?と、大祐自身も呆れてしまうような掠れた声に、耳元で小さく、いいよと囁く声が響いた。
くい、とリカの顎に手を添えた大祐は、リカの顔を覗き込むようにじっと見つめてから唇を重ねる。
微かに目を伏せて、視線は絡めたまま口づけを交わす。
小さく差し出した舌を遊ぶように絡める。
嵐のように抱き合った昨夜とも違う。じゃれあうようにキスを繰り返して、それから部屋着越しに互いの体を撫でた。
服越しに触れているのに、ひどく生々しくて。
もどかしさに互いの服を一枚ずつ脱がせていった。
昨夜は、愛情に浸って愛し合って、朝方は情欲にまみれた。
「ん……、ん。ね……」
「……ん?」
部屋の真ん中で服を脱いで抱き合って。
互いの肌の温度だけを感じながら、キスとお互いの肌をなぞる。その間に鼻にかかる甘い声でリカが囁いた。
「教えて?……大祐さんのこと。もっと」
「ん。ん……、どしたの?急に」
舌と舌が絡み合って、それから何度も唇を啄みあう。
吐息の間に囁くように言葉を交わす。
足を絡めて、内腿をさする様に穏やかな動きを感じながら薄く目をあけていた大祐がリカの顔を覗き込んだ。
「急……じゃないの。ん……、知りたい。私にもできるなら……、あ。……大祐さんにもっと気持ちよくなってほしいから。は、んっ」
擦り合わせていた足を軽く引いた大祐がリカの脚の間を強く刺激した。膝のすぐ上あたりでもう潤みだした場所をぬるぬると動かさされて、声が上がる。
肩に回していた手を大祐の胸に滑らせてささやかな胸に指をあてた。